音楽事務所から提示されたマネジメント契約書の内に関して、不安を覚える音楽家の方が多くいらっしゃるようです。
マネジメント契約書を読むとき最も重要な視点は、
その事務所とうまく行かなかったときのことを想定することです。
特に、事務所と方針が合わずに契約を終了するとき、そして契約を終了した後、どんな権利・義務が生じるかをきっちり理解した上で契約を結ぶことがとても重要になります。
具体的には、次のようなことを重点的にチェックしましょう。
(1)契約終了後にどのような権利・義務が残るのか
(2)契約終了後に自由な音楽活動ができるのか
(3)途中で契約解除するとどうなるのか
(金銭の支払い義務などが生じるのか)
このように契約終了時のことばかり考えるのは、ネガティブだと思われるかもしれません。
しかし、これは、アーティストにとっては音楽人生の死活問題となる話です。最悪の場合、事務所をやめるのと同時に、音楽活動もやめざるをえないことがあります。
一方、報酬の分配比率等、待遇面は、事務所とうまくいっていれば、契約更新のときに条件を交渉する余地がありますので、最重要項目とまではいえません。
上記(1),(2)について、素人が契約書から読み取るのは難しいかもしれません。
しかし、最も難しいのは(3)です。契約を途中で解除するときに、事務所から金銭の支払いを要求される場合があります。しかし、これに応じる必要があるのかどうかは、正確な法律の知識が必要です。
不安な方は、一度、専門家に相談することをお勧めします。
(1)契約期間
まず、最重要項目の一つが、契約期間です。
音楽家の立場に立つと、契約期間が長過ぎるのは危険です。
アーティストは(良くも悪くも)自由を好む人が多いため、事務所と方針が合わなくて相談に来るケースは後を絶ちません。
契約期間満了前に契約を解除する場合、損害賠償を支払うなど、不利な状況になる可能性があります。
したがって、事務所と方針が合わなくても、最初の契約期間満了までは我慢したほうがよく、我慢できる程度の契約期間にすることが重要です。
(2)対価(報酬、印税etc)
対価の支払いに関しては、数字に気を取られがちですが、それ以上に大事なのが「お金に関するルールが明確で、かつ全ての場合を網羅しているか」です。
ライブのギャラ、グッズの売上、印税収入etc.全ての収入形態について、その分配や支払い方法が網羅されているかをチェックしましょう。
また、「経費を差し引く」と記載がある場合は、どこまでが「経費」に含まれているかも明確にしておきたいところです。
(3)著作権等の権利の帰属
まずは、著作権と原盤権の帰属をチェックしましょう(事務所に帰属することが多いです)。
そしてもう一つ重要なのは、芸名・バンド名・ユニット名に関する権利です。
権利の帰属をチェックするときには、必ず、「契約終了後その権利はどうなるのか」もチェックしましょう。
(4)どこまで「専属」なのか
「専属マネジメント契約」といったとき、所属タレントの自由な芸能活動が全く認められないケースが多いです。しかし、最近はマネジメントの態様も多様化しています。ある程度自由な活動がしたいという音楽家は、契約時にその旨を主張してみても良いかと思います。
(5)契約終了後の活動の自由はあるか?
これも、最重要項目の一つです。事務所との契約終了にあたって、
・契約終了後も今の芸名を使えるか?
・今の楽曲を演奏できるか?
というご相談は非常に多いです。契約時にその点はしっかり把握することをおすすめします。
(6)契約解除について
契約期間満了までマネジメント契約を続けることが難しい場合は、「契約解除」をすることになります。
例えば3年間の契約期間をまたずして契約を終了することなど無いだろう、と軽く考える方もいるのですが、そんなことはありません。
健康の理由、経済的な理由、音楽的な方針の不一致など、契約期間満了を待たずして契約を解除する場合は多くあります。
契約解除の条件をしっかり確認しておくことが重要です。
(7)損害賠償の範囲
上述(6)の解除をした場合には、損害賠償の問題が起こる場合があります。このとき、音楽事務所によっては、明らかに不当な額の損害賠償請求をすることがあります。
私が音楽家の側に立って契約書を作成する場合は、損害賠償請求の範囲や額に制限を設けることをお薦めしています。