弁理士から見た東京オリンピックエンブレム問題

東京オリンピックのエンブレムの問題が話題になりましたね。

この問題は、法律的な問題、倫理的な問題、政策的な問題、その他色々な問題がごちゃごちゃにからまって、難しい議論となっていました。

ただし、弁理士が法律(知的財産法)の観点のみで見た場合、話はわりとシンプルです。

この記事では、「法律」の観点のみでお話をしますので、その点は予めご了承ください。

また、私は、この記事において、「違法行為があったか否か」について議論するつもりはございません。私がインターネット等で見た限られた情報の範囲内で、「違法行為は無かったのかな」と推測しておりますが、それもあくまで推測であり、私自身、真相を知ることはできません。

さて、この事件に関係する法律は、主に二つあります。

「著作権法」と、「商標法」です。

まず、著作権の話についてお話しします。

著作権の問題は、いわゆる「パクリ」(真似をした)と言われていることと関係します。

著作権という権利は、登録などの必要はなく、創作と同時に発生する権利です。ただし、そのかわり、著作権侵害と認められるためには、「似ていること」だけでなく、「真似したこと」を証明しなくてはなりません。「真似したこと」は主観ですので、なかなか証明が難しい。そういう意味で、若干弱い権利だと言えると思います。

世間では「パクリ」という言葉で、騒がれていますが、これは著作権法の観点から言うと、この主観的に「真似をした」かどうかについて議論されていることになります。主観について真実を明らかにすることは難しいので、「真似をしたか」については、色々な客観的証拠から証明するしかありません。

例えば、次のようなことから検討します。

・「元」となったデザインが、どれくらい有名なのか。

・その「元」となったデザインを知っていたのか。

・「似ている」とされる部分はありきたりなものではないのか。

次に、商標法の話をします。

商標権は、著作権と異なり、お金を払って商標登録しなければ権利が発生しません。そして、商標登録は、国ごとにすることになっています。日本で商標権を得たければ、日本で商標登録しなければなりません。今回の騒動の最初の元になった外国の劇場のエンブレムは、少なくとも日本では商標登録されていなかったようです(日本でビジネスをしないので当たり前ですね)。

また、商標権が著作権と大きく異なるもう一つの点として、「真似をした」かどうかは問題にならないということがあります。つまり、商標登録しているマークと似ているものを知らずに使っていたとしても、「知りませんでした」は通用しないということです。

ただし、先ほどもご説明しましたが、今回の騒動の元になった外国のエンブレムは少なくとも日本では商標登録されていなかったので、商標法上の問題は無くなります。

<まとめ>
東京オリンピックエンブレム問題は、法律的には、著作権侵害と商標権侵害の二つの論点があるが、商標権侵害には該当しないことが明らか。
一方著作権侵害に該当するかどうかは、(1)似ているか (2)真似をしたか の二つの要素が論点になる。特に(2)の要素については主観を知ることは難しいので、外的な証拠について様々な議論がされている。

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